コーポレートリアルエステート

最近、お取引先からコーポレートリアルエステート(CRE:Corporate Real Estate)という言葉をよく聞くようになりました。コーポレートリアルエステートとは事業会社の不動産利用活動のことです。経営全体の戦略とCREマネジメントの整合性が取れるように立案し、実行することの重要性が言われています。


特に不動産ファンドでコーポレートリアルエステートを強化する動きがこの1・2年活発です。コーポレートリアルエステートを企業に提案する人は、提案先企業全体の財務体質を理解し、コアビジネス・ノンコアビジネスの切り分けを考え、企業が保有している不動産のこともよく知った上で経営層にプレゼンテーションを行いますので、財務分析スキルと不動産に関する知識、経営戦略的思考、および高度なコミュニケーションスキルが要求されます。若い人であればプレゼンテーション資料作成スキルも必要です。そのようなわけで、コトラもコーポレートリアルエステートビジネスに従事できる人材の求人ニーズを頂くことが多くなりました。


なぜコーポレートリアルエステートが注目されているのか。今までのわたしの理解では「不動産を投資する企業(例えば不動産ファンド)がビッド(入札)競争で不動産を取得しようとすると価格が高騰し、投資のうまみが少ない。それよりも、不動産を保有している企業に直接働きかけを行い、最終的には相対で不動産を取得できるようにしたい。それには、企業に対して経営全体の提案を行いつつ、場合によっては戦略的資本提携の提案(買収提案も含む)もしながら、企業の不動産戦略全体に関与しなければならない。」というものでした。ある面では間違った理解ではないと思いますが、これだけでは不動産取得側の理屈であり、コーポレートリアルエステート業界が発展する、チャンスがあるという理由には乏しいような気がして、なんとなく腑に落ちていませんでした。それが昨日、前いた銀行の大先輩(現在不動産ファンド社長)から話を聞いて、とても良く理解できましたので、今、備忘録的に書いています。


不動産を取り巻く環境をマクロ的観点で見ると、この10年、日本でも不動産は証券化、流動化され、不動産金融分野は活発になりました。しかし、全体で見るとまだまだ多くの不動産は企業が保有しており、すなわち、流動化していない不動産が多い状況です。ざっくりとした数字で言えば、REIT純資産残高と私募ファンド残高が共におよそ各10兆円であるのに対して、企業が保有する不動産は50兆円に及ぶそうです。アメリカの具体的な数字を調べ切れませんでしたが、企業が保有する不動産の割合は日本よりも圧倒的に少ないのだそうです。不動産証券化に関わる人たちにとっては、不動産金融業界がより活発になるためには、企業が保有する不動産を流動化する必要がある、そこにまだまだチャンスがあるというわけです。


一方で、事業会社サイドはバブル当時に投資した不動産の含み損を抱え、処理するに処理できない状況が続いてきましたが、昨今の企業の業績向上で、含み損を償却できる体力がついたためいよいよ売却をしようと考えるところが多いようです(そもそも減損会計があるので、含み損があれば損が出てしまいますが)。その両者のニーズがマッチしつつあるのが、この1・2年ということでした。


また、大きなお金を動かしたい人たちは、企業に不動産の流動化を提案して・・という活動を積み上げるよりも、いっそのこと会社を買ってしまおう、という動きに出ています。その代表的なディールは先月のゴールドマンサックスによるシンプレクス・インベストメント・アドバイザーズの買収(5000億円)です。日経金融の一面に、「外資『土地持ち』に照準」と出ていましたが、まさに電鉄、百貨店、不動産ファンドなど土地を保有する企業が、外資系企業からM&Aのターゲットとしてアツい視線を送られています。


これでわたしは良く理解できましたので、次回からはコーポレートリアルエステートのビジネスをより魅力的に語れる気がします(^^)