世間の記憶

だいぶご無沙汰しました。


親しいお取引先に「情勢展開のあまりの速さに適切なタイミングで書けないんでしょう」と指摘されましたが、その通りです。知人の会社が経営危機に陥ったことにびっくりしていたら、別の会社も危機に陥り、さらにグローバルな企業までもがあっけなく破綻するなどのスピードの速さに、タイミングよく感想が書けませんでした。


金融機関の持つ金融資産は、メーカーの持つ工場設備などの資産とは違ってマーケットの動向に影響を受けやすいので、金融機関は巨大な利益を計上することもありますし、損失の拡大も急激です。加えて金融機関は資産を支えるバランスシートの右側の殆どが負債であり、その負債もマーケットに依存していることが多いため、すぐに資金繰りに窮してしまいます。


以前、破綻した長銀は債券発行銀行で、債券を発行して資金調達をしていました。発行した債券はセカンダリーマーケットで流通するのですが、信用不安のうわさを受けて債券の流通価格が下がり、その下落をみた株式市場のプレーヤーが株を売り株価が下落し、またその影響を受けさらに債券の価格が下がり・・・、という信用不安の悪循環におちいり、急速な資金繰り悪化に見舞われました。当時、都銀や信託銀行の経営悪化のスピードよりも、長信銀の悪化のスピードのほうが速かったのは、もちろん資産内容が悪かった云々という話もありますが、債券市場と株式市場の両方の厳しい目にさらされ、ダブル効果で信用不安の拡大が急激だったともいえるのだろうと思います。


以前、金融業界が規制業種だったころ―ほんの十数年前ですが―、金融機関に勤めることがもっとも安定している道だと世間では言われていたのですが、今ではそんなことが全くうそのようです。


こういうコメントをすると、「当時から金融機関の経営は厳しくなっていたから、安定した就職先ではないと僕は分かっていた」という方もいらっしゃるかもしれません。もちろん当時そのような意見をしていた方もいらっしゃるでしょうが、破綻という最も厳しい事態を予想していた方よりも何とかなると思っていた方のほうが多かったのではないでしょうか。そういう空気や価値観は忘れられてしまうものだと思います。


昨年や今年にリーマンブラザーズに就職した方が「破綻しそうだったリーマンになぜ就職したの」という、質問を受けた側からすると心無いとも思える質問を受ける時期も来ると思います。人の記憶、特にプロセスや価値観に関する記憶はあいまいで、結果が記憶に残る、という事実を受け止めるしかありませんね。。がんばれー。陰ながら応援しております。